2026.04.22

精神科医学を発展させたローゼンハン実験


精神医学は”正常”と”異常”をしっかり区別できてるのだろうか?

今回は過去にそんな疑問を持った心理学者が精神科医学に一石を投じた、ローゼンハン実験についての紹介です。興味深い実験なので暇な時間におひとつどうぞ。

ローゼンハン実験

ローゼンハン実験は1970年代に心理学者のデイヴィッド・ローゼンハンが精神科医学の診断の妥当性に問題提起するため、偽の患者を精神病に入院させた実証実験です。

この実験でローゼンハンは精神科医学の診断の曖昧さ精神疾患のラベリングが与える周囲への影響精神病院の環境的な問題を論文として発表し、世間に波紋を呼びました。

偽患者の入院

実験ではローゼンハン本人を含む8人の精神疾患をもたない偽患者が精神病院に入院できるか検証しました。協力者はデータの偏りがないように主婦や画家などバラけた属性の人を集めています。

検証に先立って協力者には幻聴症状として診断を受けること、そして他の質問には正確に答えるように指示を出していました。

こうした指示のもと各自違う病院で診断を受けた結果、8名のうち7名が統合失調症、1名が鬱病と診断され無事(?)に全員が精神病院に入院することができました。

ラベリングで行動の解釈が変わる

8人の偽患者は事前に入院後の指示も以下の内容で受けていました。

  • 入院後まもなく幻聴が無くなったことを伝え、正常であると主張すること
  • 病院では協力的な患者として過ごすこと
  • 病院での記録はメモを取ること
  • 退院は医師の判断にまかせること

入院後、偽患者たちは指示通りに病院へ幻聴が無くなったことを伝えました。
そして病院での生活は日常的な挨拶や会話、必要があればスタッフの手伝いをするなど至って普通の患者として過ごします。

しかし病院側はこうした普通の行動を病的なものとして解釈してしまいます。
暇でボーっとしている=無気力状態
挨拶や会話=不安や依存の表れ
みたいな解釈です。

こうした精神疾患のラベリングによる誤認もあり、偽患者8人の入院期間は7日〜52日の平均19日と言う結果になりました。

この入院期間のバラつきや日数は不自然なものではありませんでしたが、ローゼンハンは正常な状態を正しく診断できなかった点において、ラベリングの問題と診断基準の曖昧さを指摘しました。
また入院期間中に感じた問題として、患者を無視するような雑な扱い、病院生活の刺激の少なさ、プライバシーへの配慮など精神病院としての在り方についても言及しています。

さらに興味深いのが、偽患者の状態を病院側は見抜けなかった中で、複数の本物患者から「あなた正常じゃない?」的な接触を受けたということでした。
その他、直接的な接触はないものの気づかれていたであろう患者を含めると、その数なんと約1/3程度の患者が偽患者の状態を見抜いていたと言うのです。

これは”精神病患者”というラベルに強く影響を受けた病院側と、影響を受けにくい立場だった患者の視点の違いによるものだったと、ラベリングの影響が見られた点として報告されています。声かけられた偽患者さん。ドッキドキだったでしょうね。

と、ここまでがローゼンハン実験の内容です。
次はこの実験に関しての有名なエピソードの紹介。

精神医学界が怒った

ローゼンハン実験での報告は世間を賑わすものとなりましたが、これに対して怒りを見せたのが精神医学界です。

  • この実験は不当である(公平性に欠ける)
  • 再現性が乏しい(サンプルが少ない)
  • そもそも患者は嘘をつかない前提で診断している(これは本当にごもっとも)

と言った強い反論が挙がります。しかしそんな中…

「ウチの病院で試してください」

と声を上げる謎に勇敢な病院が現れました。
「フハハッ、奴は四天王の中では最弱」とでも言いたかったのか、なんにせよ胸熱すぎる挑戦者の登場です。

そしてローゼンハンはその病院に「3ヶ月以内に偽患者を送る」とだけ伝えるのでした。

勇敢な病院、疑心暗鬼になる

予告を受けた病院には3ヶ月で193名の患者が訪れました。
そして病院側はそのうち41人を偽患者の疑いアリとして、最終的には19人を偽患者として報告しました。(ちなみに偽患者認定を受けたからといって入院拒否などはされていません)

そもそもこの勝負、病院側が不利すぎるだろとは思いますがその結果は…

なんとローゼンハンは誰1人として偽患者を送っていませんでした
病院側は刺客を気にするあまり通常患者を偽患者として誤解してしまっていたのです…この病院は一体何を絞り込んでいたと言うのでしょうかぁぁ!?

そしてこの皮肉な結果もローゼンハンは精神科医学の曖昧さ示すものとして報告しています。
こうした後日談も踏まえローゼンハンが行った実験は精神科医学の診断について改めて考えるキッカケになったのでした。ちゃんちゃん。

さいごに

ローゼンハン実験ですが、後年にキャハランというジャーナリストの調べによって捏造疑惑が浮上しているようです。偽患者の記録の改竄や幻聴以外の症状も伝えていたのだとか。
ただ真偽はさておき精神学を見直すキッカケになったことは事実のようなので意味のある実験だったのかなと思います。
でも、もし本当だったとしたら不透明な精神医学を不透明な実験で正そうとしたっていう何とも皮肉めいた話だな…と。以上!